COLUMNコラム

2026年10月23日コラム

60代・70代で歯科手術を受ける前に確認したい持病や服薬の注意点

目次

持病や服薬を事前確認して進める歯科手術の考え方

60代・70代の抜歯やインプラントなどの歯の手術は、年齢だけで受けられるかが決まるわけではなく、持病の数値や飲んでいる薬を確かめて計画を立てます。薬を自分の判断で止めると体調に影響が出ることがあるため、お薬手帳を持っていき、歯科医師と主治医が連携することが大切です。この記事では、確かめておきたい薬の種類や受診前の準備、手術のほかの選び方まで説明します。

この記事の要点まとめ

  • 歯科手術の計画では年齢だけでなく、持病の状態や服薬内容を確認します。
  • お薬手帳や検査結果を持参し、薬の継続や休薬は歯科医師と主治医に相談します。
  • インプラント・ブリッジ・入れ歯の特徴や通院、手入れを踏まえ、体調や生活に合う方法を検討します。

60代・70代の歯科手術で確認する持病と薬の種類

年齢を重ねると複数の持病を抱える方が増え、薬の効き方や体内での代謝も変化します1。服用している薬の数が多いほど、歯科で処方する薬との飲み合わせや副作用への配慮が求められるため、事前の情報共有が欠かせません1。

血圧・心房細動・糖尿病は「数値と安定期間」を見て判断します

歯科手術を受けられるかどうかは、年齢ではなく普段の血圧や血糖値、脈の乱れがどのくらい安定しているかで判断します2。糖尿病や高血圧、心房細動がある方は、持病の状態によって処置の進め方や日にちを調整することがあるため、普段の数値を歯科医師に伝えておきましょう。

一般的には、数値が落ち着いていない時期は手術を先にのばし、まず内科の主治医に体の状態を問い合わせます。体全体の管理を先にしたほうがよいとされたときは、設備のととのった病院の歯科口腔外科を紹介する流れになります。

抗凝固薬・抗血小板薬を飲んでいる方が抜歯前に伝えたいこと

心房細動や血管の病気で処方される抗凝固薬・抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)は、脳梗塞や心筋梗塞を防ぐ役割を持っています12。抜歯などの処置では血が止まりにくくなることがありますが、薬を続けるかどうかは病気の状態や処置の内容によって判断が分かれます。原則として飲み続けたまま処置することが多いものの、歯科医師と主治医が相談して決めます。

歯医者にかかるときは、薬の名前と量、飲みはじめたわけ、さいきん受けた血液の検査の数値を歯科医師へ伝えてください。こうしたことがそろうと、傷をぬう準備や血を止める材料の用意、1回で行う処置の範囲をしぼるといった計画を立てやすくなります。

骨粗しょう症の薬は「種類・飲み方・使ってきた期間」が判断材料になります

骨粗しょう症の治療に使う薬のなかには、骨がつくりかえられる働きをおさえるものがあります。こうした薬は抜歯やインプラントのあとの傷の治りを遅らせることがあり、まれに顎の骨の病気(薬剤関連顎骨壊死)を起こすことがあります3。整形外科で処方された飲み薬や注射薬であっても、歯科の治療計画に直結するため申告が必要です。

確認したいのは、薬の具体的な名前、毎日・週1回・月1回・年1回といった使用の間隔、そしてこれまでに使い続けてきた期間です。骨造成(足りない骨を補う処置)やインプラントの可否にも関わるため、注射を受けている方は実施日も控えておきましょう。

よくある誤解:自己判断で薬を休むと、かえって危険があります

「血が止まらないと困るから」と、抜歯の数日前から自分の判断で薬を休もうとする方がいますが、自己判断での休薬は避けてください。血液をサラサラにする薬を途中でやめると、脳梗塞や心筋梗塞が起きたり再発したりするおそれがあり、起きると重い状態になりやすいとされています2。

薬を続けたまま抜歯するときは、傷口を縫ったり止血用の材料を使ったりして、出血をおさえる準備をします。薬を休むかどうかは、歯科医師と主治医が相談して決めます。また、感染を防ぐつもりで、家に残っている以前の抗菌薬を自分の判断で飲むことも控えてください。

ポイント

薬の継続や休薬は歯科医師と主治医が連携して判断するため、ご自身の判断で服薬を止めたり残薬を飲んだりしないでください。

受診前に準備したい情報と主治医との連携の進め方

複数の診療科に通っていると、診察室の口頭の説明だけでは薬や病歴の伝え漏れが起きやすくなります1。初診のカウンセリング時に書面で情報を揃えておくと、主治医への確認から治療計画の作成までがスムーズに進みます。

お薬手帳・検査結果・通院先の一覧をまとめて持参する

内科や整形外科など複数の医療機関でもらっている薬は、1冊のお薬手帳にまとめて持参してください1。市販薬やサプリメントも飲み合わせに関わることがあるため、普段飲んでいるものはメモを添えておくと伝え漏れを防げます。

あわせて、以下の情報を紙に書き出して受付やカウンセリングで渡せるように準備しておきましょう。

  • ここ数か月のうちに受けた血液検査の結果や、血圧手帳の記録
  • いま通っている病院やクリニックの名前、診療科、担当の先生の名前
  • これまでに入院や手術をしたことがあるか、薬や金属のアレルギーがあるか

歯科医師と主治医の連携で、相談時に聞いておきたい質問

体の病気がある方が歯の手術を受けるときは、歯科医師から内科や整形外科のかかりつけの先生へ手紙(診療情報提供書)を送ります。体の調子や薬の扱いをたしかめてから、処置の日を決めます。はじめての相談のときは、気になることを前もってメモして聞いてみてください。

たとえば「今の薬を続けたまま処置できるか」「主治医への手紙のやり取りにどのくらい日数がかかるか」を聞いておきましょう。あわせて「処置当日の朝はいつも通り薬を飲んでよいか」「消毒や抜糸を含めて何回通うか」も確認しておくと、見通しを持って準備ができます。

歯科用CTでわかる顎の状態と、全身状態の評価は別の確認です

インプラントや、神経に近い歯の抜歯などでは、従来の平面的なレントゲンに加えて歯科用CTによる三次元撮影を行い、顎の骨の厚みや歯茎の状態、神経や血管、上顎洞(鼻の横にある空洞)の位置を確認します。顎の骨が薄くインプラントが難しいと言われたケースでも、骨を補う処置を検討できる場合があります。

ただし、歯科用CTで把握できるのはあくまで顎の骨や歯の立体的な構造であり、全身の血圧や心臓の状態、薬の影響とは別の評価です。画像検査による局所の診断と、主治医からの情報に基づく全身の評価の両方を揃えて初めて、手術の計画が成り立ちます。

家族の付き添いと両立できる通院計画の立て方

点滴でうとうとした状態をつくる静脈内鎮静法を使う日は、処置後にふらつきが出ることがあるため、ご家族の付き添いや、車を運転しない帰り方の準備が必要です。局所麻酔だけで行う抜歯やインプラントの日は、付き添いが必要かどうかを処置の内容に合わせて相談しましょう。ご自身の仕事や配偶者の介護・通院の予定と重ならないよう、処置日は余裕のある週を選ぶと進めやすくなります。

通院先を探す際も、自宅からの移動手段や術後の通院回数を事前に確かめておくと、離れて暮らすご家族に支援を頼む時期を決めやすくなります。なお、持病の状態や処置の規模によっては、地域の歯科医院ではなく病院での処置を検討する場合もあります。

インプラント・入れ歯・ブリッジは身体への負担と術後の過ごし方で選ぶ

インプラント・入れ歯・ブリッジは身体への負担と術後の過ごし方で選ぶ

歯や歯の神経はできる限り残す方針で検討しますが、歯が割れているなど保存が難しい場合は、抜歯後にお口全体の噛み合わせのバランスを守る治療が必要です。1本でも歯を失うと、残っている歯にかかる力のバランスがくずれます。また、歯を失うなどして噛む力が落ちることと、認知機能の低下との関連が報告されています4。

3つの治療法を負担・期間・手入れの軸で並べた一覧表

抜歯後に歯を補う方法にはインプラント・ブリッジ・入れ歯の3つがあり、外科処置の有無や治療期間が異なります。

項目 インプラント ブリッジ 入れ歯(義歯)
外科処置の有無 あり(顎の骨に人工歯根を埋入) なし なし
治療期間・回数の目安 約3〜6か月以上(骨の結合を待つ期間を含む)/通院5〜8回程度 約1〜2か月/通院3〜5回程度 約1〜2か月(完成後の調整期間を含む)/通院4〜6回程度
費用の目安(自由診療・一般的な相場) 1本30万〜50万円程度(骨造成は別に5万〜15万円程度) 1本8万〜18万円程度(3本つなぐと24万〜54万円程度) 15万〜50万円程度
残っている歯への影響 隣の歯を削らない 両隣の健康な歯を削って支えにする バネをかける歯に負担がかかる
毎日の手入れ 歯磨きと歯間ブラシによる清掃 橋渡し部分の隙間に通す清掃が必要 毎食後の取り外し洗浄と就寝前の管理
持病・服薬の制約 全身状態や骨の薬による影響を受けやすい 外科処置がなく制約が少なめ 外科処置がなく持病がある方も選びやすい

インプラントは自由診療(健康保険が使えない治療)です。表の費用には、検査と手術、上にかぶせる歯づくりまでが入っています。入れ歯やブリッジは、素材やつくりによって、保険のものと保険がきかないものから選べます。

  • ブリッジ(自由診療):セラミックなどで作る方法です。強い力で欠けることがあります。
  • 入れ歯(自由診療):金属のバネを使わない部分入れ歯や金属床義歯などがあります。素材が年月で変わったり、修理が難しかったりする場合があります。

記載した金額は一般的な相場であり当院の費用ではありません。実際の費用は検査や骨造成、仮歯の有無、選ぶ素材や欠損の本数など医療機関により異なるため、当院の費用は診察のうえでご案内します。インプラントを含めどの治療も、術後の定期的なメンテナンスと清掃が欠かせません。

手術への負担を抑える工夫と、手術を伴わない選択肢

インプラントを選ぶ場合、事前のCTデータとシミュレーションをもとに患者様ごとのガイド用のマウスピース(ガイドテンプレート)を作製し、歯茎を大きく切開せず小さな穴から埋入して傷口を抑える方法があります。また、手術への恐怖心や嘔吐反射が強い方、処置時間が長くなる方には、点滴でリラックスした状態をつくる静脈内鎮静法を併用する選択肢もあります。

一方で、持病の数値が不安定な方や外科処置そのものを避けたい方には、手術を伴わない入れ歯やブリッジを含めて治療計画を検討します。お口の型取りから噛み合わせの調整を重ねて作る入れ歯など、身体への負担を抑える方法も選択肢となります。

術後の出血・腫れ・痛みの通常の経過と、早めに連絡したい症状

抜歯やインプラント手術のあとは、麻酔が切れてから数日間、痛みや腫れ、唾液に血が混じる程度の出血がみられることがありますが、多くは処方された薬を飲むことで徐々に落ち着きます。食事は麻酔が切れてから、おかゆやうどんなどやわらかい物を反対側の歯で噛むようにし、当日の長風呂や飲酒は控えてください。

ただし、清潔なガーゼを20〜30分しっかり噛んでも血が止まらない場合や、2〜3日を過ぎても腫れや痛みが日ごとに強まる場合は、予約日を待たずに歯科医院へ連絡してください。発熱や唾液の飲み込みにくさが出た場合も同じです。血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は、処置の翌日に消毒の予約を入れておくと様子を確かめやすくなります。

こんな方にはこの治療法が向いています

それぞれの治療法には利点と留意点があるため、ご自身の体調と「どこまで噛めるようになれば日々の食事に納得できるか」を照らし合わせて選ぶことが大切です。

  • インプラントが向いている方:持病や血圧が安定しており、周囲の残っている歯を削らずに奥歯でしっかり噛む力を保ちたい方
  • ブリッジが向いている方:外科手術を避けたい方で、抜歯する歯の両隣がすでに被せ物の治療を受けている方
  • 入れ歯が向いている方:服薬や体調の面から外科処置を控えたい方、まずは身体への負担が少ない方法で噛み合わせを補いたい方

ポイント

外科処置の工夫だけでなく、手術を伴わない入れ歯やブリッジも選択肢に入れ、体調と生活リズムに合った方法を選びましょう。

よくある質問

Q. 60代・70代でインプラントと入れ歯のどちらが良いですか?

A. どちらが適しているかは、持病の安定度と残っている歯の状態によって異なります。周囲の歯を削らずに噛む力を保ちたい方で、全身状態や顎の骨の条件が整っていればインプラントが選択肢になります。一方、血液をサラサラにする薬や骨粗しょう症の薬の影響を考慮したい場合や、外科処置を避けたい場合は入れ歯が選ばれることが多く、歯科医師と相談して決めていきます。

Q. 高齢になると歯科医院での抜歯や手術は控えた方がいいですか?

A. 年齢だけを理由に歯科治療を控える必要はありません1。割れた歯や重い歯周病をそのままにすると、痛みや腫れが出ることがあります。また、歯を失って噛み合わせが落ちることと、認知機能の低下との関連が報告されています4。

口の中の手入れが行きとどかないことや、むし歯が多いことが、誤嚥性肺炎にかかわるという報告もあります5。お薬手帳や検査の結果をもとに、内科などのかかりつけの先生と話し合い、体の調子に合わせて処置の範囲や治し方を選ぶことが大切です。

Q. 60代で入れ歯を使うことに抵抗があるのですが、目立ちにくい方法はありますか?

A. 入れ歯には保険診療のものだけでなく、金属のバネを使わない目立ちにくい素材や、違和感を抑えた設計の自由診療の入れ歯もあります。また、お口の状態によってはブリッジやインプラントといった固定式の治療法も検討できます。見た目の自然さやご予算、毎日の手入れのしやすさをカウンセリングで見くらべて選ぶことができます。

参考文献

1. Ouanounou A, Haas DA. PHARMACOTHERAPY FOR THE ELDERLY DENTAL PATIENT. Journal (Canadian Dental Association). 2015. PMID: 26679331

2. 医局だより「有病者歯科治療」 | 神戸大学医学部附属病院 歯科口腔外科. https://www.med.kobe-u.ac.jp/maxillo/information/specialized-outpatient/specialized-outpatient-007.html

3. 薬剤関連顎骨壊死の対応はどう変わったか | 兵庫医科大学病院. https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/medical/interview/file20/

4. Nakamura T, Zou K, Shibuya Y et al. Oral dysfunctions and cognitive impairment/dementia. Journal of neuroscience research. 2021. PMID: 33164225 / DOI: 10.1002/jnr.24745

5. Langmore SE, Terpenning MS, Schork A et al. Predictors of aspiration pneumonia: how important is dysphagia? Dysphagia. 1998. PMID: 9513300 / DOI: 10.1007/PL00009559

都歯デンタルクリニック
歯科医師
⇒院長の経歴はこちら

一覧に戻る